岐阜県岐阜市

小さくスタートしよう|山本佐太郎商店【4】最終回

2020/06/12

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手仕事・技

平成(1989年〜2019年)

お菓子 山本佐太郎商店

2017.11.22 取材


お菓子職人のまっちんこと、町野仁英さんや、柳ヶ瀬商店街の和菓子屋「ツバメヤ」、お菓子工房の「いぶき福祉会」などの製造元との出会いを通して、山本佐太郎商店の「大地のおやつ」シリーズが生まれていった。お話を聴きながら、そうした数々の出会いが、まるで地元を流れる長良川の鷹揚な流れのようにとても自然に感じていたことはすでに述べた。山から流れ出した一筋の小川は、やがて互いに合流しながら一番低いところで大きな川となる。風土にとってそれは当たり前ではあるが、人の出会いはなかなかそううまくはいかない。山本佐太郎商店の代表、山本慎一郎さんには、人の出会いを意識的に繋いでいくのではなく、むしろ何かの計らいによって、もしかしたら本人の自覚もないまま「ある出会い」がもたらされる不思議な魅力が備わっているように思った。そうした計らいを人によっては人知を超えた神の業と捉えるかもしれない。しかし私は、長良川の流れのように、地元の岐阜の「風土の計らい」と考えたい。いぶき福祉会との出会いから、かりんとうを作る見込みは立った。しかし問題はどう売るか。そこで山本さんは、


「小さくスタートをしよう」と思ったという。


地元の縁日やお祭りなどの行事で、かりんとうを売り始めた。「既製の袋に帯を巻いて、その帯を地元の女子大生にちょっとデザインしてもらい、お菓子の名前を書いただけの簡単なものでした」「油屋のかりんとう」と名付けた。縁日で売り出すと、初日に300袋完売。大変な好評だったという。「あのかりんとうをもう一度食べたいね」との声がたくさん届いた。


それをきっかけに地元の行事や催し物ごとにかりんとうを出していく。「油屋のかりんとう」から「こよみのかりんとう」など催し物にちなんでかりんとうの名前を変えていった。やがてそうした積み重ねの上に、大地のおやつの代表的なお菓子「大地のかりんとう」が生まれ、全国展開するようになっていく。


「人の出会い方も商いの広げ方も同じだ」と私は思った。山本さんは物事を逆算して考えて自分の行動を決めていくのではなく、手が届く、つまり五感で捉えられる範囲から積み上げていく。堅実な仕事ぶりと言ってしまえばそれまでだが、人は往々にして遠くて大きな存在に憧れ、心を奪われ、自分の行動を見失いがちだ。逆を言えば、身近な小さな動きに価値を見出すことができない。それゆえに、小さくスタートすることができない。


今や大地のおやつのお菓子は「大地のかりんとう」の他に、「おいも泥棒」、「うのはなマーチ」、「3じのビスケット」などたくさん仲間が増えている。11月には新商品「ともだちビスケット」も販売し始めた。来年には、いぶき福祉会と新たなお菓子工房も地元に作る予定だという。そこでは作業場をガラス窓で囲い「見える化」したいと山本さんは夢を語る子供のように声を弾ませて語ってくれた。福祉施設で働く障害者の方々の仕事ぶりを地域の人に見て欲しいのだという。そうした人と人の出会いが、必ず地域を力強く興していく、そう山本さんが考えているのではないかと私は想像した。


「風土の計らい」がもし山本さんに働いているとすれば、それは「地元の地域を興す役割が託されている」からではないか。山本佐太郎商店は地域にとってますますかけがえのないお店になっていくのだろうと私は嬉しくなった。素晴らしい出会いと取材だった。(全4編 終わり)

 取材協力・文章確認:山本佐太郎商店

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