地域 神奈川県川崎市宮前区

「未知なる原風景へ」小倉さんと髙原さんの対談より

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人・古老の話

令和(2019〜)

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〇「未知なる原風景へ」とは
現在進行形の「仕事(営み)」と、その源流にある「生い立ち」を行き来しながら、その人の瞳がいま何を見つめているのか、その「原風景」を対談から探ります。
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第1回目は成城大学グローカル研究センター・髙原太一さんとささらプロダクション・小倉美惠子さんの対談です。柑橘がたわわと実るささらプロダクションの前の一枚の畑。その柑橘を手絞りした「日向夏&湘南ゴールドジュース」で髙原さんをお出迎えします。「橘樹群」の土地を語るのにぴったりです。

 

対談の最後、「未知なる原風景とは」という問いを前に、髙原さんは迷うことなく筆をとりました。応えは「問いのなかに眠っている」。そう応えた約3時間の対談。どのような視点の中に原風景は立ち現れてくるのでしょうか。

 

小倉さんと髙原さんは、同じ土橋村の生まれです。といっても30年ほどの時間のずれがあります。髙原さんはいわゆる“開発後”の土橋での生まれです。見てきた風景もにおいも、同じものばかりではないはずです。しかし小倉さんは髙原さんの地域への視点に対する信頼を寄せていました。今回の対談においても、髙原さんがつくりだす、時間を超えて空間を共有する術を、その半生からうかがい知ることができました。

 

お二人の出会いは、『出稼ぎの時代から』という一本の映画にありました。ここ土橋村が高度経済成長期只中に開発される裏側で、その労働者として山形県白鷹町から出稼ぎに工事現場に赴くひとりの人間が過酷な仕事の合間を縫って劣悪な飯場とそこで生きる人々を活写した映画です。土橋村の開発のもう一つのものがたりを通じてお二人は出会いました。


髙原さんは、フィールドワーカーとして「歩く」ことに力点を置いていると言います。地元を歩くことのおもしろさは、この町から始まるものがたりを辿ることができることにあると語ります。歩く仕方は決まっていて、いつもとは違う道を、いつもとは違う見方で歩いてみるということです。そうすることで、歩く道が発見と違和感に満ちた探求の世界に変化してくるということでしょうか。そうした歩くことの哲学からはじまる世界に、ここ土橋村のものがたりも入り込んでいたのだと思います。
 
一方で地域や土地の歴史を語ることの難しさもあると髙原さんは受け止めます。土地にはさまざまなものがたりがあるからこそ、それによって「土地のロマン化」が起きえるのです。この両義性に挟まれた地域という存在を、自然を真ん中にして受け止める仕方があるとお二人の話から見えてきました。子ども時代の遊びには、時間を超えた共感がありました。髙原さんの遊びと言えば、谷戸の地層がむき出しになった土壁に落書きをすることだったと言います。それに対しては聴き手の小倉さんも共感を示します。今は埋め立てられてもうそのような姿はないと言いますが、記憶の中で共鳴していく瞬間を垣間見ました。自然を真ん中にし、子どもの眼で見る。これは健やかな地域の見方にも思えてきます。それがお二人の時間軸をこえた地域の見方と言ってよいのではないでしょうか。

 

「私のピースがうまっていくような時間だった」小倉さんは対談の時間をそのように振り返ります。時代を超えて立場を超えて地域を語ることで、新たな問いが生まれようとしている時間でした。
 

写真

昔の地図をみて語る
尻手黒川道路を一望する歩道橋へ
ものがたりの重なる正福寺へ
2026/03/24

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